産婦人科医に聞く思春期女性のホルモンと身体(後半)
(前半から続く)
身体の仕組みを知らずに人生を後悔することも
勝 月経が始まってから、痛みなどいろいろなものを早くから治療していれば、子宮内膜症にまでならなかったというケースもあるんですか。
八田 あると思います。早くに低用量ピルで治療していく。それから自分の状態やそもそもなぜ生理があるのかっていうことをちゃんと理解して自分のライフプランを立てている子は、早めに赤ちゃんを産んでやっていこうと思っています。生理痛を我慢したまま妊娠を先延ばしして、さぁ赤ちゃんが欲しいと思ったとき、不妊治療をしないとできないなんていう結果は悲しいです。事実、30代半ばくらいから妊娠率は下がっていきます。妊娠可能年齢に個人差はありますが、多くの女性がまだまだ自分事として捉えていないのが実情だと思います。
勝 産める年齢にはリミットがある、という意識があるようでぼんやりとしています。ぎりぎりになって気が付くわけです。私もそうでしたが。
八田 正しい情報を伝えなくてはと思います。勉強だったら頑張れば成績は上がるし仕事も成果が上がる。努力をしてお金をかければよい結果を得ることがほとんどでしたが、この不妊治療に関しては、本当にいくらお金をかけても、有名な最高峰の病院で極上の治療をしても妊娠に至らないことすらあるんです。だから、真面目に頑張ってきた人ほど大きく挫折するんですよ。苦しんでるのを見ているのはとても辛いです。
勝 10代のスタートから始まって婦人科へ行くことのハードルの高さって、ずっと変わらずあると思います。私くらいの年齢になってもいまだに行ってない、検査していないっていう方もいます。婦人科のハードルが高いまま10代から20代になり、検査もしたりしなかったりで、30代になり自分の大きな疾患に気がつかないままというケースも多いと思います。この婦人科への壁は何でしょうか。
八田 やはり内診が一番のハードルだと思うんですね。内診台に上がる。人に見せたくないところを見せるのは羞恥心があって気がすすまないのは当然だと思います。でも、私のような同性の女性医師も増えてきてますし、内診をしなくても、生理の状態をお聞きして、ピルだったら血圧と問診だけで処方ができます。そういったこともまだあまり知られてないんですね。現在、HPVワクチンが小学校6年生から高校1年生までが公費負担になっています。医療機関での接種になっているんですね。HPVワクチンの接種の際に、私は生理痛など月経トラブルがないかも聞いてます。それをきっかけに治療につながるケースもあります。月経がある度に、女性は1ヶ月に1回子宮の中で炎症を起こしています。毎月妊娠の準備をして子宮のベッドを厚くし、妊娠しないと剥がれ落ちる。この時に炎症が起きる。それを繰り返しているわけですから、女性は月経の度に体に負担がかかるのは当然なんです。
勝 産む子供の数が少ない現代女性の方が圧倒的に月経の回数が多いですから、炎症も多くなりますね。
八田 生物学的に見れば、一番自然なのは妊娠することなんです。よく言うんですけども、なんで生理があるの?って聞かれると、妊娠をするためなんだよって。だけど、今、結婚して赤ちゃんを作れというのはハラスメントになるからそれが言えません。でもあなたは今体の中でこういう現象が起きているんだよっていうことをお伝えすると、生理を休ませるピルを飲んでみようと治療を始める女の子も増えてきました。何でも相談できる婦人科もしくは内科のかかりつけ医を持って欲しいですね。やっぱり生理が始まった女の子に対してもっと積極的に月経について聞いてあげる、そういうシステム、それが診療科を超えて、思春期だけを見るようなクリニック、ユースクリニックなどが増えていって欲しいと思います。一人で悩みを抱えている女の子もたくさんいます。海外では診療が無料で、お茶を飲みながら相談できるユースクリニックが普及していますが、日本はこれからですね。
勝 先生の「思春期女子の体と心Q&A」を読んで、そうか、思春期の頃ってこんなに色々モヤモヤしたし、体は重かったし、はっきりしなかったし、憂鬱っていう10代の自分を思い出しました。人間の体は変わらないから今の女子も同じです。でも今の子は圧倒的に忙しい、情報は溢れている、SNSもある。私たちの時代より過酷な環境ではないでしょうか。
八田 思春期はシャワーを浴びるようにたくさんのホルモンが出てきます。女性ホルモンだけでなく、男性ホルモンも出てそれらのホルモンに翻弄されるわけです。だから、まだ心が大人になっていないと、なんでこんなことになったと、自分の性に対してネガティブに感じてしまうことだってある。それを正しい知識を持って対処していただきたいなと思います。きっとそこから幸せにつながっていくと思います。
勝 自己肯定感が日本の女性は低いと言われます。最初の10代の頃に、大人の女性になっていくスタートから改めていかないと、低いままなんじゃないかなと思います。どうしたらいいんだろうなって。
八田 大人になることが素晴らしいことという教育が足りないように思います。私たち大人も年を重ねても、子どもたちに「格好よくて素敵!」と言われるようにもっと頑張らないといけませんね。日本って、女性の価値が「可愛いのが一番」で止まってるんですね。いまだ日本文化の価値感のスタンダードがないように感じます。多様性が浸透していく時代において、自分の体のことをまず理解して、自分を大切に思う気持ちを持って生きて欲しいですね。これからも変わらず女の子たちをしっかりサポートをしていこうと考えています。
八田 真理子 (はった まりこ)先生プロフィール
1990年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業
1990年 順天堂大学産婦人科 研修医
1992年 千葉大学産婦人科 医員
1993年4月~1998年3月 松戸市立病院産婦人科 医長
1998年4月~ 聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田 院長 現在に至る
1975年9月に実父が開院した「八田産婦人科」を継承し、地域に密着したクリニックとして、
思春期から老年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングに従事する。
女性のヘルスケアに関する相談会やセミナーへの登壇など通じて、性教育・不妊・更年期などの正しい知識の啓蒙にも積極的に取り組んでいる。
日本産科婦人科学会専門医
母体保護法指定医
日本女性医学学会専門医
日本抗加齢学会専門医
日本産科婦人科学会認定 ヘルスケアアドバイザー
日本医師会認定健康スポーツ医
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
日本思春期学会 性教育認定講師
千葉県立松戸国際高等学校 学校医
松戸市立栗ヶ沢中学校 学校医
聖徳大学 兼任講師
日本マタニティフィットネス協会認定インストラクター
NPO法人 フィット・フォーマザー・ジャパン理事
2018年11月 恩賜財団母子愛育会会長賞
2019年11月 健やか親子21 厚生労働大臣賞受賞