産婦人科医に聞く思春期女性のホルモンと身体(前半)

ホルモンの働きを知って美しくいきましょう

ティースプーン一杯の女性ホルモンが女性達の人生の鍵を握っています。女性ホルモンが急激に増える思春期、そして急激に減る更年期。ほぼなくなる更年期以降。いまだかつてないほど長く生きる私たちは、体と最新の医療の知識を得て賢く選択をしていくのが美しく生きるコツ。聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田院長の八田真理子先生に聞きました。
(インタビュー:ガールパワー専務理事・フリーアナウンサー 勝恵子)

聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田院長・産婦人科医 八田真理子先生(右)
ガールパワー専務理事 勝恵子(左)

思春期の女の子たち

勝  ガールパワーは、そもそも南インドの女の子たちへの月経教育というプログラムから始まっています。現地の女の子たちは月経というメカニズムを知らなくて、何故生理がくるのか、妊娠出産するための女性の体の準備だということの教育の支援をしています。日本では衛生教育や性教育はされていて、日本女性はもう少し知識があるとは思いますが、実のところはよく分かっていないまま大人になってしまったんじゃないかと思うんです。それがどうもこの30年くらい全く変わっていない気がします。

八田  私自身も小学校4年生の時に、養護教諭の先生が女子だけ集められて、視聴覚室でナプキンの当て方、サミタリーショーツのつけ方などを教えてもらいました。ただそれだけで、赤ちゃんができる準備が始まったんですよ、ということしか習ってこなかったんです。40年以上経っても教育自体は全く変わっていないようなのです。そこから始まって、5年生の保健授業で何故生理が来るのかということを教えてもらったと思うんですけども、あまり皆さんの記憶に残っていないのが現状です。女の子の中には生理が始まって、なんだ、この血は!ということで、ナプキンを当てて。痛い、つらい、なんで女の子だけこんなに血が出るんだとショックを受ける子もいます。初潮から間もないのにどんどん痛みがひどくなってくる子もいますし、自分の性に対してネガティブに考えてしまう子子も多い。

勝  生理に対して初めからイメージはよくありません。その後日本の性教育はどのような中身なのでしょうか。時代に伴って変化してきているのでしょうか?

八田  日本の性教育はいまだエイズを中心にした性感染症と避妊については語られるのですが、月経によって女の子の体にどういう変化が起きているか触れる機会が少ないんですね。性感染症の教育はあっても、セックスをするなとか、なるべく待て、またコンドームという言葉は使ってはいけないんです。教育指導要項に入っていないという現実ですので、とにかくするな。こういう怖いHIVとかっていうのがあるぞ、ということしか教わらない。それで終わってしまう。いまの時代、SNSやインターネットですでに目にしてるし、知ってる子どもたちがほとんどですのにね。

勝  コンドームという言葉を使ってはいけないんですか?

八田  使えないです。教育の現場で言葉として認められていないんです。例えば、男性の先生がこれだぞ!とコンドームを示して言うと、もう親からクレーム、教育委員会からクレームが来てしまうことだってあります。だから外部講師が学校に行き、そこで教えているんです。医師や助産師を外部講師として、先生方が教えられない代わりに、なるべくリアルな話をしてくださいって任されているような現状ですね。でも実は、今の子供たちはスマホでなんだって知っています。セックスの場面も女性器、男性器、皆わかっています。でも大人がきちんと教えないで、オープンにしないっていう空気のまま性教育を続けていても、ちゃんとした知識が根付かない。先生の方がモジモジしてしまうと、とてもいやらしいことなのかなって子どもたちが感じてしまう。もっと本当は、小学校低学年の時に、「うんちがうんちが」って皆で笑いながら盛り上がっている時期に、うんちと同じように性のことも明るく話してあげればいいのではないかと思うのですが。そのまま成長して高校生になっても本当のところを教わらない。私たち医師が外部講師として学校現場に行けるようにはなりましたが、理想的な性教育には程遠い現状です。

勝  本当に親にですらなかなか言えないとか、親から性のことは聞いたことがないっていう子も多いですよね。

八田  女の子は外陰部を洗ったことがない子もいて、垢だらけだったりします。教わっていない。もう少し自分のからだに関心を持って、自身を大切にできる社会作りが必要だと思います。私は中学高校の学校医をやっているので内科検診で学校に行きます。心臓や肺の音を聴きながら、生理痛など月経トラブルにも意識を向けるようにしています。「この子は生理のときは毎回ぶっ倒れています、保健室で来るんです」と養護の先生に紹介された生徒さんが月経困難症で、診察を受け治療を始めることもあります。高校では個別相談になり、生理のトラブルのある子だけを集めて、毎年60~70人くらいずっと同じ話をします。生理痛がひどくてもただひたすら我慢。鎮痛剤もクセになるからなるべく飲まないようにしている。生理痛を楽にするピルの存在も知らない。婦人科を受診するのはまだ早いと考えている子が多くてびっくりします。

勝  そういう子供たちのお母さん方も婦人科にあまり行かない、ピルのことも知らない。ピルっていうと避妊薬というイメージだけで、知識として止まっている親世代も問題じゃないかな、と思います。

八田  そうです。おっしゃる通りですね。ママブロックにあうわけです。本当にピル=避妊薬でうちのの娘にかぎってそんなこと必要ありません、で終わってしまうこともあります。保険適応薬で低用量エストロゲンプロゲスチン配合剤(LEP製剤)は月経困難症治療薬です。2008年に発売されてもう16年くらい経ちますが、ようやく保険治療薬ということが知られてきました。一歩一歩ですね。まだまだです。

勝  母親世代は生理も妊娠も病気じゃないわけだから、治療するという概念が分からないですよね。多少の痛みや辛さは当たり前。でも医療は進化しているから知識をアップデートしていかないと、せっかく治療ができるのにそれを逃してしまいます。

八田  そうですね。いまだに我慢することが美徳されているところはあります。親に言われて、鎮痛剤をなるべく飲まないようにしているという子もいます。月経痛から月経困難症、そして子宮内膜症という病気に発展し、それが不妊症の要因にもなることがまだまだ知られてないようです。一方で、「多様性」という言葉がクローズアップされ、本来の男の子女の子の違いを理解しないまま、更に異性の違いも伝えづらくなりました。そうなると、異性に興味を持つ年齢にうまく興味を持てなくなったり。なんかおかしいですよね。思春期のときは男の子、女の子互いにコミュニケーションをとりワクワクして、手を繋いでドキドキして、お互いを思いやり、信頼し、大好きになって。そしてそのずっと先に性行為があって、というのを体験してもらいたいですね。先日学校の先生の会があり、男らしさ、女らしさっていうのもちゃんと言うべきじゃない?って話してみました。やっぱり男の子がこうあるべきだ。女の子がこうあるべきだっていうのも伝えたらいいんじゃないかなって思ったからです。多くの先生方が賛同してくれました。男の子が男らしくて、女の子が女らしくあることは何も問題ではないはずなのに、そういうことを言うと差別になる、というのはやはり少しおかしいと思います。実際セックスをしない若者は増えているというデータがあるし、出生率も中絶率も年々下がっています。中絶率が下がることはよいのですが、妊娠適齢期の男女がセックスをしていないことには問題があると思います。

勝  性の違いが大きくなってくる思春期にまず体やその仕組み、心の違いを理解しないとその先もずっと理解しないままですね。

八田  そうなんです。男の子は、精通があり筋肉が太くなり声変わりがしてきます。女の子は、胸がふくらんできて初潮が始まり体も丸みを帯びて、妊娠できる体の準備が始まります。まずそのことをきちんと学ばないと、アイデンティティもおかしくなるんじゃないかなって思います。性別違和を感じるのは多くが就学前からだと言われていますが、中にはなんでこんなことになってるんだろうと、悩んでしまう子がいるのも事実です。生理でお腹が痛くて、なんだろうとその先の行動がわからない子もいます。知識がないまま育ってきて女性特有の病気を発症する子が増えてます。生理痛のひどい状態を月経困難症と言いますが、いまとても増えています。以前は生理痛のある子のうち月経困難症は3割程度だったんですが、今は半数近くになってるんじゃないかな。生理のときにお薬飲まなきゃいけない、鎮痛剤が効かない、予定をキャンセルする、学校に行けないなど、生活に支障をきたしている子が増えています。その先にある子宮内膜症という病気も実際増えていて、これが不妊症の原因の一つになっています。

後半に続く

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