産婦人科医に聞く更年期女性のホルモンと身体(前半)

ホルモンが大きく影響する更年期と閉経後の女性の身体と生活

ティースプーン一杯の女性ホルモンが女性達の人生の鍵を握っています。女性ホルモンが急激に増える思春期、そして急激に減る更年期。ほぼなくなる更年期以降。いまだかつてないほど長く生きる私たちは、体と最新の医療の知識を得て賢く選択をしていくのが美しく生きるコツ。聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田院長の八田真理子先生に聞きました。
(インタビュー:ガールパワー専務理事・フリーアナウンサー 勝 恵子)

聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田院長・産婦人科医 八田真理子先生(右)
ガールパワー専務理事 勝恵子(左)

勝  平均閉経年齢50歳、前後10年間といわれる更年期、そしてその後も私達は長生きです。90歳近くまで頑張らなきゃいけない笑。いつまで頑張れるのかなと感じます。

八田  生かされちゃうんですよね。今や日本女性は二人に一人が90歳まで生きる時代です。「長生きリスク」とも言われてます。そもそも閉経したら女性ホルモンは出なくなるので、さまざまな不調が出てくるわけです。平均寿命と比べ、自分のことが自分でできる健康寿命は約12年短いとされてます。これは問題ですね。この世代、女性ホルモンが急激に減少する更年期ををまず上手に乗り切ることが大切だと考えています。

勝  更年期はホルモン補充療法HRTで私は劇的に改善しました。これをいつまで続けようかという段階にきています。

八田  女性の守り神である女性ホルモンが、頭のてっぺんから足の先までまさにカギとカギ穴のように、1兆分の1グラムくらいのほんの微量で作用していました。それが一気になくなるのですから、全ての機能がダウンして不調が出てくるわけですね。記憶を司る脳の海馬の機能が落ちると物忘れがひどくなります。肌も荒れ乾燥し、シミも増える、目も悪くなります。骨も弱くなって骨粗しょう症に。それまで低血圧だったのに急に血圧が高くなったり、コレステロールが高いと指摘されたり。そこで、エストロゲンを補うHRT(ホルモン補充療法)は健康寿命を延ばす一つの方法として注目して欲しいと思います。いまは、懸念されてきた乳がんリスクを上げない、天然型の黄体ホルモンも登場し、血栓症リスクの少ない経皮吸収のシール、パッチやジェルもあり、症状や年齢に応じた治療で緩やかに年を重ねるのもお勧めです。

勝  何もしないでいて今までの体を保つことは難しくなりますね。

八田  意識をもって何とかしよう、手をかけてあげようとするのが大切ですね。人間の体って手をかけると、必ずそこの血液の流れが良くなり、反応してきます。。だからやはり、意識を向ける(リテラシーを上げる)ことが大事だと思うのです。そして正しい情報をキャッチすることも大切です。更年期以降気をつけてほしいのは、たくさんあるのですが、まずは骨です。

勝  ああ、骨折という言葉が友人同士でも会話に出てくるようになりました。

八田  骨粗鬆症です。定期的に検査をして自分の骨密度を把握してください。減っているようならば早めに対処する。まずは運動、食事、睡眠、姿勢、そして治療薬があります。私たちは地球上にいる限り重力を受けています。スマホを見る時間が長くなって、姿勢が悪くなると、悪い姿勢が長く続いて、肩こりや腰痛など痛みが出てきやすくなります。さらに骨粗しょう症が進むと、背骨が曲がって、圧迫骨折、転倒のリスクにつながります。女性の健康寿命が短くなる理由としては転倒骨折、その先の寝たきりが約半数を占めています。骨や関節が男性とは違って弱いので転倒、骨折により早くから寝たきりになって健康寿命が短くなる。まずは、骨を丈夫にすること。これが重要です。骨が元気だと若々しい上に骨年齢は血管年齢、寿命ともリンクします。姿勢がいい人は若くて美しいのです。私もかなり気をつけています。

勝  HRT治療をしているためか今のところ骨密度の急激な減少はないのですが、最近カルシウムのサプリメントを摂り始めました。

八田  よいことですね。HRT治療中でもそのスピードはやや抑えられているものの、骨密度は加齢に伴い減少していきます。サプリメントで全てが解決するわけではありませんが、骨粗しょう症を意識してのサプリメントは悪くないと思います。

そして更年期後はGSMという病態がありますね。閉経関連尿路生殖器症候群という状態です。これは閉経以降、女性ホルモンの低下による外陰や膣の粘膜や皮下組織の萎縮などによる不調を言います。2004年から世界の閉経学会で提唱されていますが、ここ最近非常に注目を浴びています。

勝  くしゃみをすると尿漏れしてしまう、というものですね。

八田  大きく分けて3つの症状があります。1つは排尿障害ですね。頻尿とか尿漏れ。くしゃみししたら尿が出たり、お尻が漏れたり。そういった排尿障害。2番目は腟周りの不快な症状。痒みとか臭いが気になるとか、乾燥とか擦れとかね。下着がくいこんだり、自転車に乗れなくなったりします。痒み、むずむずするとか。これも多い症状で、腟の中の乳酸桿菌パワーが落ちて、腟の中が乾燥して、外陰部の脂肪が痩せて、骨盤底筋が弱くなることにも関係しています。3番目は性交障害です。性交痛、セックス時の出血です。パートナーとの性交が辛くなる方もいます。

勝  GSMは更年期以降の女性の大きな問題ですね。

八田  GSMに関しては、ほぼ全員がなっているんですが、気がついている人で半数、病院にかかっている方が1割程度です。今後これに対して私はもっと治療していくべきだと思っていますし、多くの方に気がついて欲しいと思っています。うちではレーザ治療(モナリザタッチ)もやっています。あとは尿漏れに関しては、服を着たまま座って骨盤底筋を強制的にトレーニングさせる治療器(アンチェア)もあります。あとはジェルであったり、HRTも色々組み合わせてやっていこうと考えています。このGSMは、適切なケアや治療をしないとずっと続きます。更年期はいずれ抜けられます。

勝  更年期治療よりさらに治療についてさらに浸透していない気がします。

八田  みなさん不快な症状はあるはずなんですけどね。市販薬を使ったり、我慢しちゃうのかな。それと、日本は世界一のセックスレスの国です。半数以上の方が、婚姻関係があるのにセックスレスです。セックスレスとは特別な理由がないのに1カ月以上性交をしていない状態のことです。またセックスの満足度も低いと言われています。賛否両論ありますが、パートナーがいるのならばセックスはあった方が良いでしょうね。セックスをすることで、骨盤底筋が鍛えられ頻尿や尿漏れも改善したり、腟の状態も良くなります。GSMの症状も改善することもあるのです。

後半に続く

関連記事